千一夜物語

神羅が目覚めてからというものの会える機会を窺っていた。

唯一、人で屋敷の出入りを許されている伊能という男が神羅の食事の用意をしているのだが、それを神羅の元まで持って行くのも黎。

最初はうきうきしながら待っていたものの一向に会える機会はなく、神羅が屋敷に来てから五日目――澪は黎の手から神羅の食事が乗ったお盆を奪い取ってにっこり笑った。


「黎さん、これ私が持って行くね」


「…何を話すつもりだ」


「そんな警戒しなくても!会いたいだけなの。何か話してほしくないことがあるのなら今言って?」


「……特にない」


「はい決まりっ!」


押し切りに成功した澪は、半ば茫然としている黎にしめしめとほくそ笑みながら神羅の元を訪れた。

障子を開けると神羅は身体を起こしていたものの顔色は悪く、ふと顔を上げた神羅と目が合った澪は、警戒されないように距離を保ったまま一旦正座して深々と頭を下げた。


「澪と言います。これお食事です。食べれそうですか?」


「…はい」


言葉少ななのもまだ警戒されているから。

常に前向きな澪は、白い浴衣の胸元が血で滲んでいるのを見てとるやささっと近付いて、枕元に用意されていた替えの包帯を手に鼻息を荒くした。


「それ取り替えますから私にやらせて下さい」


「え、でも…」


「女同士なんだからいいじゃないですかっ。それとも黎さんに替えてもらった方がいいとか…」


「!ち、違います!よろしく…お願いします」


「大丈夫ですよ、私、人なんて食べたことありませんから。どんと任せて下さい!」


澪の後を追ってきた黒縫の姿に一瞬神羅が驚くと、澪は神羅を警戒させぬよう四つん這いになって伏せた黒縫の頭を撫でた。


「この子は黒縫。私のお世話役なの。黒縫、挨拶は?」


『お初にお目にかかります。鵺の黒縫と申します』


突然現れたひとりと一匹に目を白黒させる神羅がおかしくて、澪は腕まくりをしながらにっこり。


「さあさあさあ!替えたらご飯にしましょ。その後お薬と…」


――全くといっていいほど悪意がない。

神羅は身構えていた自身がおかしくなって、ふわっと笑った。