千一夜物語

目の前で着替え始めた黎に両手で目を覆った神羅は、明らかにひとり用の床にふたり寝るのは不可能だと抗議した。


「ふうん、じゃあこうしよう」


着替えた後おもむろに押入れを開けた黎は、そこから新たな床と布団を取り出して神羅の声を荒げさせた。


「新しい布団があるのなら私はそれを…!」


「そこまで否定されると傷つく。もうそれで我慢しておけ」


ふたつの床をくっつけると余裕でふたりは寝れる大きさになり、濃緑の甚兵衛を着た黎は当然のように動揺している神羅を抱き寄せて横になった。


「三日三晩お前の看病をしたから疲れてるんだ。何もしない」


「…ではこの身体に回ってる手を離して下さい」


「俺は抱き枕がないと寝れない。お前も早く寝ろ。薬湯が効いてくる頃だ」


傷を癒すには眠るのが一番良いらしく、玉藻の前が煎じた薬湯には眠る効果のあるものが含まれているため、神羅も睡魔と戦っていた。


「本当に…本当に何もしませんね?」


「病人相手に何をしろと言うんだお前は。何かしてほしいなら言…」


「おやすみなさい」


目を閉じると黎はさらに神羅に身体を寄せて密着してそっとその手を握った。

優しくて思いやりのある握り方にどきっとして――きゅっと指を閉じて絡めると、黎が耳元でこそりと囁いた。


「看病した礼は?」


「…何が欲しいのですか?」


「お前から俺に口付けをしてくれ」


「!な、何もしないと言ったじゃないですか…」


「俺からは何もしない。だからお前がするんだ」


――目を開けるとにこにこしている黎の笑顔に深い深いため息が漏れた。


「…今日だけですからね」


「分かったから早く」


神羅は黎のきれいな形をした唇を凝視して的を外さぬようにしながら顔を寄せた。

そして唇が触れ合うと――得も言われぬ幸福感を覚えて、そのやわらかい感触に背筋が震えた。


「…拙いな」


その拙ささえ、愛しい。


黎は神羅の頭に手を回して引き寄せると、深く唇を重ねて音を立てながら貪った。


嫌がる素振りはなく、だが恥ずかしいのか頬が上気している。

燃え上がる一方で、それを止める者は誰も居なかった。