千一夜物語

黎が去った後、神羅は布団を被って決して喜んではいけない気持ちを押し殺していた。


ああやって直球で攻めてくる黎の言葉にどれだけ翻弄されているか。

食われるのは嫌だけれど――たった一度でいいから、身を委ねて…そうすることができたなら、この人生に悔いはない。


どうやって諦めようとしても、はじめて好きになった男なのだから、あの腕に抱かれて、そして――


「……この布団…黎の匂いがする…」


どこか甘くて好きだと思える香りが布団からして、そこではっとなった。

もしかしてこの布団…いや、この床…そしてこの部屋は…黎の部屋なのでは?


「い、た…っ!」


思わず飛び起きた神羅は激痛に顔をしかめながら畳を四つん這いで這い、そろりと障子を開けた。

外はもう夜で満月が浮かび、月光に目を細めながら少し遠くの縁側に居る黎を見つけた。

するとすぐ視線に気付いて厳しい表情を浮かべて腰を上げた黎に慌てて障子を閉めて床に戻った。


「何をしている。じっとしていろと言ったはずだぞ」


「ですが…ここはお主の部屋なのでは?」


「そうだがそれがなんだ」


「じゃあ…あの床や布団もお主の…」


「だからそれがなんだ」


かあっと顔が熱くなって赤くなった神羅は、それを見て目を丸くした黎に顔を見られまいと枕で顔を隠したものの、その枕にも黎の匂いがして思いきり黎に向けて投げつけてしまった。


「元気なようで結構だが、なんだこの仕打ちは」


「何故!?他に部屋があるのでは!?」


「別に何も考えてなかっただけだ。俺の床だと何か問題があるのか?」


「新しい床を用意して下さい!私は他の部屋に移りますから!」


「それは駄目だな。俺の目の届く所でないと」


神羅が絶句して口をぱくぱくさせると、黎はぴんときた顔をしてにたりと笑って神羅をぎくりとさせた。


「俺とふたりで居ると何か問題でもあるのか?」


「い、いいえ、別に?」


「ふうん、じゃあ今夜から俺もここで寝る。何も問題がないんだからいいだろう?」


「!!」


どんどん空回りして顔色がさらに赤くなっていく神羅に黎は思わず吹き出して手で口元を覆った。


見ていて飽きない――

ずっと見ていたい――


死ぬまで、ずっと。