千一夜物語

それからも妖たちは続々と屋敷を訪れていた。

本家を出奔した黎は各地をひとり放浪しており、その間に牙をはじめ、主に人に退治されようとしている妖を助けることが多々あり、その回数が多いため本人の記憶にはほとんど残っていない。

またそんな些事を気にする性格でもなく、礼を言いに訪れた妖たちがここに残りたいと言えば勝手にすればいいと言い放ち、お気に入りの縁側に寝転んでいた。

広大な庭を見渡せる縁側の前がお気に入りで、そこに通じる部屋を居間として、日当たりの良い庭に面した部屋を自室として、日々牙や玉藻の前が中心となって掃除や家具の配置などが着々と行われていた。


「あぁーっ!ずっりぃ!俺も一緒に寝たい!」


縁側に寝転んでいた黎の腹の上には小さくなった真っ赤な毛並みの火車が喉を鳴らしながら乗っていて、素っ頓狂な声を上げた牙を薄目で睨んだ黎は眉を上げた。


「だってお前は大きいじゃないか」


「小さくもなれる!よーし、子犬が希望か!?今すぐなって…」


「馬鹿狗!まだ終わってないわよ!早く橋の所にある家具を運んで来なさい!」


玉藻の前に怒られて火車を全力で睨みながらすごすごと橋の方に向かった牙を見送った黎は、火車の喉を撫でてやりながら玉藻の前に声をかけた。


「橋の所まで運んでもらっているのか?」


「ええそうですわ、平安町の者は浮浪町に通じる橋を渡ろうとしませんので仕方なく」


「狗神の姿の牙を見てこちらの連中は驚かないのか?」


「最初は驚いていましたけれど、わたくしたちが手を出さないので黙認されている感じですわね」


――無駄な殺生を禁じる。

それがこの屋敷に居残りたい妖たちとの約束であり、それを守っているうちは黎の傍に居ることができる。

主とひとつ屋根の下に居るなんて恐れ多いと近くの山林などに住処を構えている者も居るが、寝る時以外は大体この屋敷に常駐していた。


「そうか、じゃあ俺もそろそろ出てみるか」


「お供いたしますわ!」


うきうき。