千一夜物語

神羅が目覚めたと聞いた澪は、黎の部屋の前をうろちょろしていて黒縫に諭された。


「澪様、少し落ち着いて下さい。部屋から出れるようになるにはまだ当分先のことですよ」


「そうよね、うん、分かってるんだけど…」


するとすらりと障子が開いて黎が出て来た時に僅かにその隙間から中を窺い知ることができた澪は、身体を起こしてはいるがつらそうにしている神羅と黎を交互に見た。


「黎さん、お話してもいい?」


「まだ駄目だ。もうしばらくは外には出さない」


――黎の表情は、はじめてここに来た時よりだいぶ明るく、こっちの方がいい、と内心思った澪は、縁側に座った黎の隣にぴったりくっついて座るとつのかくしを少し上げた。


「黎さんの…恋人なの?」


「…違う。だが死なれては困る女だ。話したいならもう少し先にしてくれ」


「うんっ」


――明るい澪にも救われる。

第一こうして無防備に無邪気に話しかけてくる澪には少しの嫌悪も面倒くささも感じず、傍をうろちょろされると兎を飼っているような気分になって、つい澪の頭を撫でた。


「!」


「実はあの女…神羅は悪路王という妖に狙われているんだ。俺と神羅はとある契約を交わして俺が守ることになっている。怪我をした以上しばらくはここに滞在させる。お前と話す機会も今後あるだろう」


「うん、楽しみにしてるね」


黎を煩わしてはいけない。

澪が口角を上げて笑みを浮かべると、黎も同じように小さく笑ってどきっとした。


「黎様、朝廷から使者が来てるんだけど、通していいか?」


「誰だ?」


「業平とか言ってるけど」


「…あの関白か」


神羅を物欲しそうな目で見ていたあの男――


すっと立ち上がった黎は居間に入って上座に腰を下ろした。


「連れて来い」


もちろん、渡すつもりは毛頭なかった。