千一夜物語

屋敷の改装をしている間に、おかしなことが起き始めた。


「ごめん下さい、こちらは黎様のお住まいでしょうか」


「なんだお前は」


「私は以前黎様に助けて頂いた火車でございます」


「助けた?人違いじゃないか?」


「いやいや黎様、そいつはちょっと前に陰陽師に殺されかけてた化け猫だ。黎様そいつがめっちゃ泣いてたから陰陽師ぶった切って食ったじゃん」


「覚えてない」


「助けて頂いたお礼に何か恩返しをと考えたのですが…私にできることはあなたの力になることのみ。あなたにお仕えいたします」


牙のように大きな真っ赤な体躯の化け猫を見上げた黎は、肩を竦めた。


「覚えてないが居場所がないなら別に居てもいいぞ」


――そして翌日。


「すみません、こちらは鬼頭のご当主様のお宅でしょうか」


「なんだお前は」


「私は烏天狗と申します。以前人に退治されかけて翼を傷つけて弱っていた私に薬と身体を休める住処を探して頂きました」


「覚えてない。人違いじゃ…」


「いやいや黎様、そいつもう死にかけててたじゃん。一度は通り過ぎたけど引き返して助けてやったじゃん。まーた覚えてねえのかよ」


「私はもう死ぬ覚悟を決めておりました。ですがつっけんどんではありましたがあなたに救って頂き、噂を聞いてこちらに参りました。お傍に置いて下さい」




……次々に妖がやって来る。

それもこれも皆が皆、命を救ってもらったと言っては傍に置いてくれと言い、妖は忠義に厚いため一度信頼を寄せるとしつこく言い寄って来る性質もあり、めんどくさくなった黎は肩を竦めた。


「覚えてないが居たいなら別に居てもいいぞ」


「まあ…黎様を慕う妖が次々に来ますわね。全員を受け入れるおつもり?」


「断るのもめんどくさい。俺は奴らの世話はしないが居場所がないなら仕方ない」


――めんどくさいとは言うが根底には情に厚い所もある黎にまた惚れ込んだ牙と玉藻の前は、腕まくりをして奮起した。


「まだまだ増えるかもしれないから早く屋敷を完成させましょう」


「そこだけは同意してやる!」


ぎゃあぎゃあと喧嘩しながら牙と玉藻の前が張り切ると、黎はきらきらした目で見つめてくる火車や烏天狗をぴっと指さした。


「お前たちも働け」


本人は働く意思、皆無。