千一夜物語

「黎様ー!蔵にすんげえもんがあるー!」


翌朝庭掃除を任せていた牙が大声を上げて手を振ってきたため、黎はやれやれと縁側を離れて庭の奥にある蔵へ向かった。

とても大きく重厚な観音扉付きの蔵の中へ足を踏み入れると――中にはまさに金銀財宝が所狭しと並べられていて、思わず目を丸くした。


「これは貯め込んだものだな」


「元々家主の分と、あとごろつきたちがせっせと貯め込んだ分だと思うけどどうする?」


「屋敷の改装費に使おう。俺は快適な場所で暮らしたいんだ」


屋敷を任せていた玉藻の前が黎の匂いを嗅ぎ付けて蔵に入って来ると、にたり。


「黎様、お召し物や家具などこの玉藻にお任せを」


「ん、好きなだけ持っていけ。いいか、牙が狗神の姿で平安町に行ったからあっちは厳戒態勢になっている。お前は妖だと分からないようにやれ」


「承知。ああっ、黎様のお召し物をわたくしが!玉藻がお召し物のお着替えを任されるとは!」


「誰もそこまで任せてねえよ。女狐がこんこん言ってねえで早く行け!」


「わんわんうるさいわよ馬鹿狗。黎様行って参ります」


「ん、気を付けて行って来い」


気遣ってくれた黎がはにかむように小さく笑ってくれて有頂天になった玉藻の前が十数枚の金貨を手に出て行くと、牙は鼻の頭に皺を寄せてぷいっと顔を逸らした。


「なんだ牙。玉藻と合わないのは分かるがあれは使える女だぞ」


「ふん、別に玉藻ばっか構って寂しいとか思ってねえもん」


ちらっ、ちらちらっ。

ちら見しては尻尾が下がっている牙の肩を抱いて蔵から出た黎は、その手に箒を持たせてにっこり。


「お前ほど頼りにしている奴は居ないんだぞ。だから俺に愛想を尽かすな」


「!愛想を尽かすだって!?絶対ねえし!だから俺のこと嫌いにならないで!」


はぐれ狗神がきゅんきゅん鼻を鳴らすと、黎はぐりぐり頭を撫でてさらににっこり。


「後で撫で回してやるから掃除をしっかりするんだぞ」


「了解!」


尻尾、ぶんぶん。

黎、ぼそり。


「ちょろい」