「あ、雨が止んでる」
夏至なので、夕方でもまだ明るい。道行く人々は傘を閉じて足早に駆けていく。
「そうね、それじゃあもう傘はいらないわね」
私は傘を折りたたんでバッグにしまった。そのとき、いたずらっぽく笑った妹尾が、自分の黒い長傘を私に差しかけて歩き出した。
「ちょっと妹尾、雨止んでるわよ」
「わかってますよ。これは、俺の決心だから気にしないで」
「妹尾の、決心……?」
妹尾は歩きながら、恥ずかしそうにうつむいたが、やがて私の耳元に顔を寄せてささやいた。
「我妻先輩は、今日から俺の。俺のこの傘に入っている以上、俺のもんです」
突然の妹尾の言葉に、私は驚いて彼を見た。すると、妹尾はこう続けた。
「紙切れ一枚の関係ではいたくない。でも、守ります。だから、俺の傘の中にいて。ずっとずっと」

私たちは歩き続けた。歩くうちに妹尾の指に、真壁さんが触れた指が当たった。それを敏感に感じ取ったのか、妹尾はその小指だけを握った。やがて、自分の小指をからめた。

 ゆびきりげんまん。ずっと一緒。

 夏至の雨は、相合傘の絆を結んでくれた。いつまでも……。

(了)