さようなら、ディスタンス。






コンビニでプリンを買い、自分の家へと向かった。



夜の国道4号線は、昼間よりも車のスピードが増す。


斜め前から次々とヘッドライトに殴られるような感覚。


歩道にいるのに、まぶしくて目がくらんだ。



自分の曲を口ずさみながら歩く。さびれた歩道橋が近づいてくる。


その100メートルくらい先に横断歩道があるため、あえて上らなくてもいい。


なのに、なぜか自然と足が向かっていた。



階段の足元は真っ暗だ。


踏み外さないよう一段、一段、丁寧に足を乗せた。



さすがにこの場所に来ると思い出してしまう。



『わたしが好きなのは光くんだよ』

『おれも未織だけが大好きだよ』



大好きだった未織との日々を。ここで抱きしめてキスした甘い記憶を。



階段を上りきり、歩道橋からの風景を眺めた。



まばらに近づいては足元に吸い込まれる白い光、小さくなっていく赤い光。


チェーン店やスーパーの看板の灯り。その奥にある暗闇。



昔はこの街の4号線沿いを都会だと思っていたけど、改めて見るとスッカスカだった。


僕は気づかないうちに、東京の街に慣れたのかもしれない。



「あれ……?」



歩道橋を半分渡ったあたり。


手すりに肘をかけぼーっとしている人影を見つけた。



背の高さは同じくらい。Tシャツにハーパンというラフな格好で、手にはスーパーの袋を引っ提げている。



ハイビームの鋭い光が足元に吸い込まれたと同時に、彼は視線を変えないまま僕に話しかけてきた。



「こんばんは。地元帰ってたんっすね」