【雪菜】

「あれは……なに?」

薄っすらと開かれた扉からは真っ黒な手がこちらへと伸びていた。

『あれは深淵に落ちて闇の一部になった者たちよ』

「……っ!」

『深淵の妖精ハーティアが何故この扉を守ってきたか分かる?』

リヤンの問いに私は頭を左右に振った。

それを見たリヤンは呆れるように溜め息を吐いた後、扉から伸びてくる者たちを見つめて言う。

『あの存在をこちら側に来させないためよ』

その時再び空間が大きく揺れた。

『このままだと私たちも“あれ”に飲み込まれてしまうわよ』

「あれに……」

リヤンの言葉にゾッとした。

もしあれに飲まれてしまったら……どうなってしまうのだろう?

『ここは一旦、引いた方が良さそうね』

「……」

リヤンの言う通りだ。

あんな得体の知れない者に向かっていくよりも、ここは一旦戻って作戦を練るべきだ。