女性が、ゆっくりとカレルを振り返る。

苛立ちの表情だった彼女は、カレルの顔を見ると目を瞠った。

「……あなたは?」

「この森の管理をしているひとりだ」

「森の管理? その髪の色で、ですか? あなたは本当は……」

「余計な詮索はするな」

女性の言葉に、カレルは突っぱねるような拒絶の雰囲気を出しながら言う。

「他人にとやかく言われたくない」

その冷ややかな声に、女性は言葉に詰まり口を閉ざす。

するとそれまで黙っていた壮年の男性が、割り込んで来た。

「私はサンレームの住民だが、森に問題が有るとは聞いていない。だいたい君達管理の人間に、森へ入る事を止める権限は無いだろう?」

カレルは男性の言葉を黙って聞いていたけれど、終わるとうんざりしたようにため息を吐いた。

「王弟の館の御者か……それで王族の馬車を無事に走らせる事が出来るのか?」

「! これでも御者になって長いんだ。お前に文句を言われるような腕じゃない。それに馬車を守るのは護衛の仕事だ! いいから早く薬を出せ。従わないと後悔するぞ。これは王弟殿下の縁の方の御命令なんだからな!」

御者の男性は顔を赤くして怒鳴る。
カレルは煩わしそうに顔をしかめた。

「王弟殿下の縁の方ね……外にいる派手な令嬢か?」

「そうだ。王弟殿下の妃、ラドミーラ妃殿下の姉君のユジェナ侯爵令嬢マグダレーナ様だ」

「……随分長い名乗りだな」

カレルが苦笑いで言うと、今度こそ御者は激昂した。

「お前、不敬にも程があるぞ!」

「俺はその高貴な令嬢の為に、忠告しているんだが?」

「忠告だと?」

「今、森は獣達が殺気だっている。だから出来るだけ立ち入らないように皆に警告しているところだ。どうしても入る用があるのなら充分な装備で行く事だ。少なくともあの令嬢のようなドレスで行くのはやめた方がいい」

御者は口を閉ざし、女性に目を向ける。
カレルは追い討ちをかけるべく言った。

「死にたくなければ、俺の言う事に従った方がいい」