ノーラが早速、手荒れ薬の作成に取り掛かろうとすると、診療小屋の扉が叩かれた。

「急患かい?」

ノーラは作業の手を止め、眉根を寄せる。

カレルが素早く扉の前まで行き開くと、そこに居たのは患者ではなく、外で騒いでいた見慣れぬ集団の中のふたりだった。

一人は壮年の男性。もう一人は落ち着いた雰囲気の女性だった。女性は室内の様子を一瞥した後、ノーラに向けて言った。

「突然申し訳ございません。表に診療所の看板があったので寄らせて頂きました」

女性の礼儀正しい態度を見て、ノーラは警戒せずに返事をする。

「誰か怪我でもしたのかい?」

「いいえ、実は我が主が森に入りたいと言っております。もし虫よけの薬などが有れば分けて頂けないかと思いまして」

女性の言葉に、扉近くの壁に寄り掛かりやり取りを見ていたカレルの目付きが険しくなる。ノーラの表情も一気に曇る。

「……森は止めておいた方がいい、特にあんた達は余所者だろう? 慣れない者がウロウロ出来る森じゃないんだよ」

女性はほんの一瞬苛立った様子を見せながらも直ぐにそれを隠し、丁寧な口調で返事をした。

「ご心配いたみいります。ですが護衛もおりますので大丈夫です。薬さえ頂ければ住民の方にご迷惑をかけるような事は致しませんわ」

ノーラが何か言おうと口を開きかけた時、カレルの冷ややかな声が響いた。

「やめておけ。今の森は危険だ」