なぜ、今になってあの人が訪ねて来るのだろう。

シェールは同じ年の義理の姉の姿を思い出し、憂鬱になった。

マグダレーナ・オルガ・フォン・ユジェナは、ユジェナ侯爵と正妻の間に生まれた娘で、シェールとは違いそれは大切に育てられた。

両親に甘やかされ、使用人達に傅かれ、欲しい物は何でも手に入る生活。

そんな育ち方をした為か、マグダレーナはシェールが唖然としてしまうほど我儘な性格の令嬢だった。

ユジェナ侯爵家で過ごしたほんの僅かな期間関わっただけなのに、二度と会いたく無いと思ったくらいだ。それなのに……。

「ラドミーラ妃殿下?」

黙ったままのシェールに、家令が訝しんで呼びかけて来る。

(断ってと言いたいけど……)


断ったところで、マグダレーナは平気で来るだろう。
シェールの言う事なんて、一切聞き入れないのだから。

仕方なく拒否する事は諦め、家令に問いかける。

「用件は?」

「ラドミーラ妃殿下の御機嫌伺いとの事です」

(絶対、嘘!)

マグダレーナが来たら、シェールが御機嫌伺いをする運命だ。

「私の方でお出迎えの準備を進めてよろしいでしょうか?」

「ええ」

「かしこまりました。他には何かございますでしょうか?」

「いいえ」

シェールが答えると、家令は深々と頭を下げてから退出した。