「ぐう――
「あまり過度にし過ぎてばれないように、ね? 華取さん」
 

宮寺先生は口元に一本指を立てて、微笑んだ。


そのまま戻って行ってしまう背中を見て、流夜くんが呟いた。


「なんとか、か……」


「え?」
 

背後を見上げると、流夜くんは苦笑していた。


「咲桜のおかげでなんとか逃れた。今日はもう帰るだけか?」


「あ、うん」
 

笑満は、今日は遙音先輩と一緒だから……。


そう続けると、流夜くんはそっとささやいてきた。


「じゃあ、先に旧館入っててもらえるか? 五分したら俺も行くから」


「!」
 

嬉しさが舞い過ぎて、声が出なくて必死に肯いた。


「目立たないようにな」
 

こくこくと肯いて、努めて目立たないように――歩き方がぎこちなくてむしろ目立ちそうだけど――人気のない放課後を歩いた。