笑満と遙音先輩が付き合っていることは、早々に先輩が公言したから、学内では公認になっていた。
 

話題が笑満に逸れたのを幸いに、軽くみんなに謝って、宮寺先生について歩いた。


行ってらっしゃーい、また明日―、と、やはりノリのいい反応だった。
 

宮寺先生は、本校舎から特別教室棟に向かう通路で足を停めた。


「急にごめんね?」


「いえ――」
 

警戒、する。なんで名指してきたのか。


「華取さんに個人的に話があって。……あまり人に聞かれていいものでもないと思って、引き止めちゃって」


「――――」
 

背筋を氷塊(ひょうかい)が駆けた。


人に聞かれて悪いもの、でわざわざクラスの子たちから引き離して――本当に、流夜くんのこと? ばれた? ばれている?
 

心臓は急く。耳に心音が響く。


やばい、どうしよう、と、答えのない問いが頭で繰り返され、鞄の取っ手を摑む手が汗ばむ。


「華取さんって――」


「―――」
 

どうしよう、いつ? いつばれた? それとも見られた? 迂闊に流夜くんに近づいてしまったことは……ある。呼んでしまったことも。


くそっ、自分の軽薄! ごめん、流夜くん――でも、


「華取さんって、お父さんは華取在義さん?」