「だから困る。君に、僕を好きになってもらわないと」
途端に、憤る。忘れていた呼吸を取り戻して口を開く。
「……ワガママすぎない?」
「うん」
「私には好きな人がいる、し……っ」
私にだって時間ないのに。
私だってあと5年生きられるかどうか……。
「うん。わかってる。でも、僕も諦めない」
真っ直ぐな目に、真っ直ぐな言葉。
どうやらからかっているわけではなさそうだ。
「んじゃ、今日は僕の決意表明ってことで」
「……うん」
「また明日」
「……うん、また」
だけど、無碍にできない。
だって余命を知っている彼の気持ちを理解できるのはたぶん、同じ状況の私ぐらい。
彼だったら、私の底の知れない孤独感もきっとわかってくれるだろう。
痛みを、寂しさを、悔しさをきっと分かちあえる。
それでも……私が好きなのは、別のひと。
私は好きな人と自分の弱さを分かちあいたいのではない。
──ただ、夢を描きたい。
「……っ……」
目頭が熱くなる。じわっと涙が滲んだ。
もう泣かないって決めた。
ぐっと痛くなる喉。我慢に我慢を重ねて、涙を流さない。
久しぶりに触れた。心の奥にしまっていた自分の傷に。
ダメだ。弱気になっちゃ。
病気のことは忘れて、私は、ただ前だけをむいて、あいつのことだけを見ていく。
それでいい、私の人生。それが、いい。



