家の前で高校入学の記念写真を撮って「行ってきます」と母と父に手を振った。


少し上を見て、眩しくて目を細める。
それでも春の太陽は、優しい気がした。


新調したローファーが地面と踵を擦る。
先に歩き出した蒼は私のすこし前をいく。
随分と高くなった背。背が低いとずっと嘆いていた弟も180センチ近くまで大きくなった。


「ねえ、別々に登校する?」

「はっ、なんで? いや、べつに……どっちでもいい」

「"離れて歩け"って言ってた3年前とは大違い」

「うるせっ」


3年前は私と一緒に歩くことを嫌がっていて、思春期を迎えていた蒼なのに。
もし、私が病気じゃなかったら、こんなに優しくないのかな。
一緒に学校行きたくないって言われていたのかな。


……なんて。


「部活始まったら嫌でも別々の登校になるんだし」

「そうだね。寂しい?」

「うざ」

「えー? 素直に寂しいって言いなよー」


眉間にシワを寄せる蒼の肩に頑張ってジャンプして腕を回す。
本気で嫌がる弟を見て大笑いする。
蒼に意地悪するのが楽しすぎる。


「お前ら仲良すぎな」


すぐ後ろからした声に振り返る。
彼方が立っていた。
私を見下ろしている彼方の目と私の目が合う。
そして、そらされる。


「えっ、なんで目そらすの⁉︎ 今のひどくない⁉︎」

「いや、なんか……いつもとちがくね?」

「え?」

「遥香、整形した?」

「はあ? するわけないでしょ」


なんの冗談よ……あ。


「メイクしてるからかな」


でも、だからって、野球以外に興味のない彼方が私のこんなちょっとした変化に気づくなんて、あり得ない。


そこまで考えて、もう一度彼方を見るとバチッと視線がぶつかり合う。
今度は私からそらした。


だって……恥ずかしくて。嬉しくて。
今、顔、見られたく……ない。


「……あー、イチャイチャしないでくれる?」


その蒼の言葉に

「どこが!」
「どこがよ!」

と、彼方とふたりで反応する。


あまりの勢いに蒼が両方の耳を両手の人差し指でふさいで「あーハイハイ。わかったから。お前らが双子ってことでいいから」と呆れたように意味のわからない台詞を並べて先に歩いていった。