向かうとみんなが整列して「卒業、おめでとうございます!」と言ってくれた。
嬉しくて「ありがとう」と返すと花束と色紙をもらった。


こうやって伝統って守られていくんだ。
きっと疎まれていた。
女のくせに。女なのに。……と。


だけど後輩は真っ直ぐに私のことを慕ってくれている。
女の子のファンもできた。
この三年間、公式戦には一度も出場することはなかった。
紅白試合や練習試合には参加させてもらった。
「男だったらよかったのに」そう何度も言われてきた。


高校生になったら、もうきっと、野球なんてできない。九人で、守って攻めて、走って打って。きっともうできない。


だけど、なんだろうなぁ。
後悔や、苦しい気持ちが全然ない。
これからも野球をしたいなって気持ちはあるけれど、マイナスじゃない。


私、きっとこの三年間、全力で、胸を張って、走り抜けることができたんだと思う。


もうきっと、十分なんだ。


「……私、ここで、みんなと野球できて幸せだった……っ」


溢れる気持ちと涙を止めることは出来なかった。
手で何度拭っても意味がないぐらい、流れ続ける。


「なに泣いてんだよぉ!」と言う同級生も、「先輩が泣くなんて、らしくないっすよ!」という後輩も。


顔をあげると、みんなが泣いていた。
そのことに気づいて私は泣きながら笑った。


「はははっ、みんな、泣いてんじゃん……っ」


みっともない鼻声。
きっと私の顔はぐちゃぐちゃで、鼻なんて真っ赤になっているに違いない。
だけど、それすら今はどうでもよくて。


空は青いし、風は優しい。
桜は柔らかく春を彩り、太陽は私たちを温かく見守ってくれている。