残り少ない私の余命。
勉強している時間の虚無に悲鳴をあげそうになったときもあった。
4年後の生存率を考えると大人になれない私に、難しい勉強なんて無意味。
だけど彼方の夢を、私たちの夢を叶える瞬間を一番近くで見るためにはこうするしかない。絶対にそれだけは諦めたくない。そういう気持ちだけで頑張れた。
時間は有限だという。
勉強している間にも腫瘍が大きくなって、私を殺してしまうかもしれない。
そんな強迫観念に焦らせられて精神もすり減る。
……だけど、それでも。
彼方のことを想うと、頑張れた。
何度も何度も心が折れかけた。
そんなとき彼方のことを思い出すと、荒む心にも穏やかな風が吹いて、ぽっと温かくなる。
これが……恋。誰かを好きになるということ。
私、大切なことは全部、彼方からもらっている。
こんなことは絶対に恥ずかしくて、彼方には言えないけれど、私の世界の中心にはいつだって彼方がいる。
価値観のど真ん中に。彼方の笑顔がある。
その笑顔のためならなんだって出来る。そう思えるほど。
……真っ直ぐに、彼方のことが好き。
***
はらり、はらり。
桜が青空をバックに舞う。季節は、春。
ランドセルからセーラー服へ変わってドキドキしていたあの頃から3年が経った。
背は3センチしか伸びなかったけれど、ショートだった髪の毛は、野球を始める前のように長くなった。
「おはよ、遥香」
洗面台で鏡に映る自分を見ていると、後ろから蒼が話しかけてきた。
生まれたときからずっと一緒にいて、ずっとなにも変わらなかったのに、今では身長に約15センチほどの差ができた。
この一年で蒼は本当に大きくなった。
「おはよ」
「自分のことかわいいと思って鏡見てた?」
「ぶっとばすよ?」
「ひえ、こわ」
おちゃらける蒼の肩に軽くパンチして、洗面台を蒼に譲る。



