天国で君が笑っている。



「とうとう私の野球人生、終わっちゃったなぁ」


彼方にボールを投げる。
彼方がいなかったらきっと私は野球に興味なんて沸かなかった。


あのときの彼方の投球が、私の人生を大きく変えた。


「お疲れ」


彼方が蒼にボールを投げる。


「遥香、マジで野球のこと興味なかったのにな」


蒼が私にボールを投げる。


「うん。むしろ嫌いだったかも。蒼の練習を見に行くのも試合について行くのも苦痛だった」


蝉の鳴き声が犇めき合う。
風はなく、空気が熱でゆらゆら揺蕩う。


「でも、今は野球が好き。野球に出会えてよかった。彼方、誘ってくれて本当にありがとね」


彼方にボールを投げる。


「おう」


ボールを受け取った彼方の短い返事。


……これで。
これで、私の野球人生は本当に終わり。


楽しかった。毎日キラキラ輝いていた。比喩なんかじゃない。本当に私のなかで宝物として刻まれている。


しんどかった練習も、悔しい思いをした三振も、エラーも、嬉しかったヒットもファインプレーも。


すべての時間、経験が私の財産になっている。


「……お前の夢も気持ちも、俺が引き継ぐから」

「うん、頼んだよ」


笑うと、彼方が「任せとけ」と胸を張った。
そして無言で何度かボールを投げ合い、「そろそろ行くか」とキャッチボールを終えた。


──それからの毎日は勉強ばかりだった。


彼方はやはり特待生としての道があったが、私と蒼は彼方と同じ道をいくのなら、苦手な勉強を頑張るしかなかった。


成績のいい美乃梨ちゃんの助けも借り、親に頼んで塾にも通わせてもらった。担任から「難しい」と言われていた志望校も「これならいけるかも」と言ってもらえるようにまでなんとか持っていけた。