残酷なほど、時間はあっという間に過ぎていく。
三年生を見送ったかと思うと、もう、自分が三年生になっていた。


青葉先輩たちの卒業式が終わったあと、昨年と同じように先輩たちを呼び出して色紙と花束を渡すサプライズをした。


その時青葉先輩に「お前が心配」と言われたのだけど、私は陸都くんと同じ野球の強豪校に進学を決めた青葉先輩のほうが心配だった。


「そっくりそのままそのセリフ、先輩にお返ししますよ」

「ははっ、やっぱり気ぃ強いな」

「じゃないと男の中で野球なんてやってられませんしね」


わざとらしく腕を組んで言ってのけた。
そんな私を青葉先輩は鼻で笑い、「手だせ」と言われたので素直に出すと私の手のひらに金色のボタンが乗った。


ふと先輩の第二ボタンを見る。そこにあるはずのボタンがなかった。


「主将はお前に第二ボタンあげるのが伝統だろ?」

「……よく守りきりましたね」

「ほんと苦労したよ」


苦笑いを浮かべる先輩。
ファンの女の子たちから全力で逃げる先輩を想像して私も笑う。
素直に受け取って「ありがとうございます」と言った。


ふとそのとき、私の隣に彼方と蒼がやって来た。
そして先輩が「頑張れよ、新キャプテン」と彼方の肩に手を落いた。


彼方は「はい」と先輩に返事をした。横顔は凛々しく、力強い。
そんな彼方を見て安心したように青葉先輩が柔らかく笑う。


「んじゃお前ら、先に行ってるから。待ってるぞ」


先輩はそう言って手のひらを軽くあげて私たちの前から歩き出した。
彼方はそんな青葉先輩の背中に頭を深々と下げて「すぐ追いつきます!」と叫んだ。
私と蒼も遅れて頭を下げる。


彼方も蒼も。そして私も。
もうすでに進路を決めていた。


先輩たちと同じ高校へいく。
ふたりは甲子園の舞台を目指して。
私は、そんなふたりを間近で見守るため。