「……遥香も女の子、だよな」
ボソリ。反芻された言葉。
目があってドキンと胸が跳ねる。
なになに。この、空気。
むず痒くて、恥ずかしくて、耐えられない。
「遥香……俺さ、お前のこと──」
──ガラガラッ。
「遥香ぁ! きたぞー!」
彼方が真剣な面持ちでなにかを切り出そうとした瞬間だった。病室の扉が開き、蒼が能天気に入室して来たのは。
私と彼方は刹那的に固まって、慌てて「ああっ、蒼やっと来たんだね」「お、おっせーぞ」とふたりで冷や汗をかきながらドギマギする。
なんで私までこんなアタフタしてるわけ?
というか、さっき、彼方はなんて言おうとした?
──「遥香……俺さ、お前のこと──」
続きは、とてもじゃないけれど、想像できない。
都合の良いことばかりが浮かんで、そうじゃなかったときのショックに耐えられないし。
それに……。
私は、長生きできないし……。
嬉しさの色で満ちていた心の中に悲しみ色の絵の具がポチャっと落ちて、じわじわと広がっていく。その色に侵食されて、ドクドクと嫌な鼓動が身体を支配する。
目の前で笑顔で話す彼方と蒼の姿を眺めながら、口角だけを無理やり上げた。
私にはもう、人並みの幸せは訪れない。
諦めに似た思考。それでも諦めたくないと葛藤する感情。
苦しい。心が痛い。
手をぐっとまるめて力を込めると、手のひらに爪が食い込む。
感情を押し殺すように笑って、ふたりの会話にいつも通りに混ざった。
それがいま私にできる唯一の現実逃避だった。