だって好きなの。彼方のこと。
あの日、マウンドの中心にいた彼方を見た、あの瞬間から。
私の世界の中心は、彼方だった。
「…………」
リビングに帰ってきた彼方がドサッとソファに深く腰かけた。
すぐそこ。手を伸ばせば、彼方の身体に私の指先が届く距離にいる。
これがいつか、永遠に手が届かないところにいってしまう。
そう考えるとたまらなく苦しいよ。辛いよ。悲しいよ。寂しいよ。
「遥香でもこんなに気弱になっちまうもんなんだな」
「…………」
「今日は遥香の気が済むまでそばにいるから」
泣きたくなるのをくっとこらえる。
優しさにとことん甘えたくなる。
今すぐにでも泣きじゃくって、困らせてしまいたくなる衝動と戦う。
きっと彼方は受け止めてくれる。
その自信はある。
だけどそうしたら、どうして泣くのか、理由を言わなきゃいけなくなる。
「……彼方」
「ん?」
「ゲームしよ」
「おう」
笑って。無理にでも笑って。悟られないように。
明るくしていなくちゃ。
もう、心配かけるのは今日で終わりにするんだ。
強くならなきゃ。強くいなきゃ。
ごめんね。彼方の悲しそうな顔を見たくない。
だから、なにも言わずに死ぬことを許してね。
ゲームをして笑って。年末恒例のテレビを見て笑って。年越しそばを食べて笑って。一緒にカウントダウンして笑って。
年越しの瞬間、地球からいなくなろう。そう言って蒼と3人でゼロの瞬間にジャンプした。
お腹が痛くなるくらい、涙が出ちゃうほど笑った。
やっぱり、彼方といると楽しい。笑顔を取り戻せる。
たとえそれがすぐに解けてしまう魔法だとしても、いつまでも脳裏に焼き付けておきたい大切な思い出だ。
私にとっては。
***



