嘘だよ。私、もうすぐ死ぬんだよ。
心の声は彼方には届かない。届いちゃいけない。届いてほしくない。
彼方がすべてを知るときにはもう私は天国にいたいの。
弱くてごめんね。傷つけることはわかっているから先延ばししたいだけなのかも。
残していく私には、なにもできない。
「盲腸って痛いの?」
「痛いよ」
「手術ってどんな感じ?」
「……麻酔してたからわかんない」
適当に話をつくる。
手術ってどんか感じなんだろう。
脳の手術って。寿命をまっとうすることなく、手術で亡くなることもあるのかな。
この前の先生の話、もっとよく聞いておけばよかったな。
「まあとりあえず早く元気になって練習来いよ」
「うん」
優しい言葉。
目線を下にして、心の中で「嘘ついてごめん」と謝る。
彼方に嘘なんてついたことないのに。
本当は、嘘なんてつきたくないのに。
……ぶっちゃけてしまいたい。
こわいよ。死にたくないよ。
助けて。
この先もずっと、彼方のそばで生きていたいよ。
「彼方、先にシャワーいいよ」
「さんきゅ」
リビングを出ていった彼方。
脱力してソファに寝そべった。
目の前が真っ暗闇だ。
どうして私が選ばれたんだろう?
どうして私だったの?
「…………」
気を抜くと泣きそうになる。
現実を受け止めきれなくて、行く宛てもないのに逃げ出したくなる。
病気じゃなくて。
みんなと同じように長生きできる私にはもうなれない。
幸せでいっぱいだった頃に戻りたい。
ついこの間まで、あんなに満たされていたのに。



