二段ベットの梯子を上ってきた蒼。「どうして泣いてるの?」と聞かれて、ゆっくり起き上がる。
暗い部屋に蒼が開けっ放しにしている扉から廊下の明かりが入り込んでいる。
だから蒼の顔がよく見える。きっと私の見るに堪えない顔も蒼にはよく見えている。
「蒼、どうしよう……」
「ん?」
「私、死んじゃうかもしれない……っ」
隠せない。蒼には。弟には。
蒼の顔が悲痛に歪むが、それを正常にしようと蒼が無理やり笑顔をつくって「は? なんの冗談……」と言う。その声は、掠れていた。
冗談でこんなに泣くわけないってことは、蒼がよくわかっていることだ。
弟の作られた笑顔がだんだん崩れていき、最後にはまた眉間にシワが寄って、目線が落ちる。
「なんっ……で……」
「蒼……っ、私、ガンだって……っ、5年後生きてるかわかんない……」
「っ、ふざけんなよ……っ」
怒りながら、私と同じくらい泣く蒼。
頬を滝のように流れる涙に「なんであんたが泣くのよ」と言うと「知るか」と怒られる。
思わず抱き着くと蒼が意外なことに背中に手を添えてくれたことに安心してもっと涙が出てきた。
お母さんのお腹の中からずっと一緒にいる。
だけど私のほうが先に天国へ行っちゃうかもしれない。
みんなを残して。
私はいなくなって。
感情も、思考も、なにもかも消えてしまう。
夢も、恋も。すべて。
私の中にあるものは、私ごとなくなる。
「彼方にはどう報告すんだよ」
「ダメ、絶対に言わないで」
「は?」
「お願い……っ、彼方には、言わないで……っ」