心の中で彼方の笑顔を思い浮かべる。その表情が歪む瞬間を想像して一瞬で絶望した。


「……っ」


息がつまる。じわっと涙が眼球を熱く包む。


嫌だ。絶対に嫌だ。無理だ、勘弁してよ。
彼方の、あの、不器用な笑顔が曇ってしまうのは耐えられない。
自分が笑えなくなることより嫌だ。


大好きな野球に専念していてほしい。
野球を無我夢中でやる彼方を見るのが好きなんだ。


──やっぱり、言えるわけない。


隠さなきゃ。
どう考えたって言えない。
私、もしかしたら、長生きできないかもしれない、だなんて。


どんな顔で、どんな声で、どんな言葉で……。
どう伝えたらいいのかなんて、一生わかるわけない。


もうずっと、先生の話を聞いているときから。
喉が痛くてたまらない。
ふっと気を抜いてしまえば……世界中に響き渡るくらいに、泣き叫んでしまいそうになる。


***


「ただいま……」

「おかえりー!」


元気よく私を迎えたのは蒼だった。
笑顔で、機嫌がいいのがわかる。今日がクリスマスイブだからだろう。
ご馳走が出るし、プレゼントもある。


そう、今日は、本当は、幸せな日になるはずだった。
私も、蒼と同じように笑って、機嫌よく過ごすつもりだった。


だけどそれも出来そうにない。


蒼の顔を見たら我慢していた涙が溢れてきて、それを隠すように「ただいま」も言わずに部屋に駆け込んだ。

二段ベットの上にのぼって布団の中に隠れた。
少しでも泣き声を外にもらさないように必死だった。


絶対におかしいって思われた。いつも一緒にいる蒼の顔を見たらダメだった。
気持ちがいっきに溢れた。苦しくて、爆発した。涙が止まらない。


「遥香?」

「……っ……」



なにも知らない蒼の声が柔らかくて。
余計に涙を誘う。


なんて言おう。なんて誤魔化そう。


「大丈夫? そんなに部活休みたくなかった?」