庭に出た。軟式野球のボールがグローブに収まっていたので、それも持って。
庭のコンクリートの壁にボールを投げる。蒼が野球を始めたときに行なっていた練習方法だ。跳ね返ってきたボールをグローブで捕る。
軟式って、「軟らかい」って文字を使うのに、硬い。ボールは弾むけど、とても軟らかいとは思えない。
右手の中にあるボールを見つめる。このボールを同じ歳の蒼はあんなにも速く、美しく、投げることができるなんて。
どうやっていたっけ。確か頭の上で両手を合わせるようにして、横を向いて、左足をあげて、右足に体重を乗せて……。
そして、大きく腕を振って、投げていた。
「……っ……」
壁に向かって、頭の中に蒼をイメージしながら投げた。
私が、マウンドに立っているような気持ちになる。
「……ボーク」
「……⁉︎」
突然降ってきた間延びした声。驚いて、言葉にならない声が出た。
ボールをぶつけていたコンクリートフェンスの上、そこからひょっこり顔を出したのは……彼方だった。
もしかして、見られ……た?
すると今度は、するりと私たちの身長ほどの高さがあるフェンスを乗り越えてきた。いとも簡単に。
「ふ、不法侵入……!」
「お前さっきの。試合だったらボークでランナー進んじまうぞ」
「え?」
「貸してみろ」
私の手の中にあるボールを、彼は奪うようにして取る。
「いいか?手を大きく振りかぶる前、一度完全に静止しないといけねえんだ」
「うん……」
彼方が左手とボールを持つ右手で合掌するように一旦静止する。
そしてそこから大きく振りかぶって、腕がしなるようにボールが放たれた。
昨日、見たやつだ。



