心の中で彼方への気持ちを噛み締めると、急に恥ずかしくなって目線を彼方からそらした。
……と、そのときだった。
「あのっ、朝霧先輩!」
「へっ?」
「あの、これ、良かったら読んでください!」
目の前に現れた一年生の女の子、それからその後ろに付き添いで一緒にいるであろう女の子と計三人。
顔を真っ赤にさせて両手でその女の子が私に差し出したのは手紙だった。
ポカンと間抜けな顔で受け取ると、「いつも応援してます! これからも頑張ってください!」と言い捨てると、颯爽と逃げ去ってしまった。
彼方と顔を見合わせて、そして同時に「ぷっ」と笑った。
「お前モテモテじゃん……!」
「女の子にファンレターもらうなんて」
きっと、野球をしてなかったら経験してなかったことだ。
そして、彼方に出会ってなかったらきっと、貰っていなかった。
辛抱できずにその場で封を切った。
「いつもカッコいいなって思いながら見てます。男の子なかで女の子ひとりだなんて辛いことも絶対あると思うんですけど、私のように朝霧先輩をかっこよくて好きだと思っている後輩はたくさんいます。頑張ってください」
読む。そして口をおさえる。嬉しくてたまらない。冗談抜きで泣きそうだ。
そんな私を見て「よかったじゃん」とすかしたように笑う彼方に「うん……っ」と大きく頷いた。
心がジンと熱くなる。
これっていわゆるファンレターってことでいいんだよね?
「おーい、お前らぁー‼︎」
遠くのグラウンドから私たちを呼ぶ蒼の声が聞こえた。
手紙を大切に封筒の中にしまって、グラウンドへと駆ける。
日差しが柔らかく、肌を撫でるような風を切る。
青い空と白い雲、グラウンドの茶色い土は舞い上がり、白いホームベースはすこし汚れている。
私たちの世界は間違いなく宝石のようにキラキラと輝いている。
目に映る色彩が明るくて、耳に入る音はまるで聞こえていない。
夢中で。目の前のことに全力を尽くす。
そうしているだけなのにすごく楽しくて充実していた。
──二年生の冬までは。