大きなため息を吐いて前に向き直す。
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「キャー! かっこいい〜!」
放課後、グラウンドでストレッチをこなしていると女の子の黄色い声が聞こえてきた。
女の子たちの目線は青葉先輩を筆頭に、彼方や蒼へと注がれていた。
「なんなんスカ、あれは」
私のストレッチの相手をしてくれている後輩、笹木くんが不機嫌そうにギャラリーを睨んでいた。
「うちの野球部は顔面偏差値が高いから」
「そうっすかね?」
「笹木くんのファンもいるじゃん」
「……ウザいだけっすよ」
一年生の笹木野々。ついこの間まで小学生だったとは思えないほど大人びた顔をしていて、同級生からも、先輩たちからも絶大な人気を誇っている。
三年生の青葉先輩、二年生の彼方、一年生の笹木くん。
この三人がうちの学校のイケメン男子代表だ。
当の本人たちは迷惑そうだけれど。
青葉先輩を除いて。
部長なのに女の子たちに無駄に笑顔を振りまいてファンサービスするから、女の子たちの目がハートになり続けるんだ。
彼方は黙々と練習に徹するだけ。
どれだけの声援があろうと、すべて視界に入っていないかのように集中している。
「朝霧せんぱーい!」
……そして。
蒼が人気なのも解せない。
深くため息を吐いてその後も練習を続けた。
ストレッチとランニングが終わり、五分間の休憩に入る。
顔に纏わりついた汗が気持ち悪くてグラウンドに備えつけてある手洗い場まで走った。
蛇口を大きく捻ると、勢いよく水が流れ出す。両手で掬って、顔にバシャバシャかけて汗を洗い流す。
するとすぐ横に人が来たので誰か確認するために顔を上げた。
そこにいたのは私と同じように顔を洗っている彼方だった。
視線を感じたのか濡れた顔がこちらを見上げ、途端に恥ずかしくなって反対側を向いた。
整っている顔に雫が滴っていて、なんだか心が落ち着かなくなったのだ。



