きっと他の人からしたら優しさには感じないかもしれない。
だけど、私にはわかる。彼方の気づかいが。
目線と声色と、丸みを帯びた言葉の端々。
ぽっと、身体の中心が温かくなる。それがなぜかはもう気づいている。
――ズキンッ。
頭に痛みが走り、こめかみを指先で抑える。
彼方が「どうした?」と心配してくれるけれど、私は「なんでもない」と笑って学校への道を歩んだ。
***
そういえば。二年生になって、蒼とクラスが離れた。彼方と美乃梨ちゃんとは今年も同じクラスになれたけれど。
朝のホームルームで進路についての紙を配られた。
「早いと思わず今からどんな学校へ進学したいか考えるんだぞ」
教卓に立つのは、野球部の顧問でもある高谷先生だ。
配られたプリントを手に取り、凝視する。
「…………」
彼方と蒼はどうするんだろう。
ふと彼方のほうを見ると、ただ前だけを向いて先生の声に耳を傾けていた。こちらを一瞬たりとも見ようとはしない彼方にすこし、寂しさを感じた。
彼方には目標がちゃんとあって、どうしたいのかが明確にあるんだ。
私の夢と彼方の夢は同じだ。
だけど、その夢を叶えるために、私は別に近くにいなくても大丈夫だってことに、いま初めて気づいた。
それでも彼方と同じ学校に……行きたい。
そばにいたい。
たとえ私が野球を一緒にプレイできないとしても。
一番近くで応援していたいもん。



