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最近よく同じ夢を見る。その夢の中で私は泣きながら彼方のことを見ている。
苦しくて、切なくて。
そんな感情に突き動かされながら真っ直ぐに彼方の背中、背番号へ熱い目線を送っている。
涙でその姿を暈しながら、それでも一瞬たりとも見逃さないようにと目を何度もこすって、凝らしながら。
──ピリリリリリ。
耳元で聞き慣れたスマホの目覚ましが鳴る。
寝ぼけ眼で画面をスライドして、アラーム音を止めた。
またあの夢だった。
二段ベッドの上、まばたきを繰り返して額に手の甲をくっつけて天井を仰ぐ。
下の段では蒼がいびきをかいてまだ眠っている。
起き上がって、梯子を降りながら腹をだして眠っている弟を見て、呆れてため息を吐く。
高校生になったら切実に部屋をわけてもらいたい。
蒼には物置になっている部屋を片付けてもらって使って頂こう。
洗面所で顔を洗って、歯を磨き、眉毛を剃刀で整える。髪の毛の寝癖をドライヤーとクシで整えていく。
そうこうしていると蒼が起きてきて、眠そうな顔でジャージのまま出掛けていった。
毎朝恒例のランニングだ。
私が制服に着替えてリビングに行くと「おはよう」と母と父に声をかけられて「おはよう」と返す。
朝食が並んだ食卓に腰掛けて手を合わせ、お父さんと朝のニュースを眺めるようにぼんやりと聞きながら味噌汁をすすった。
「ただいまー!」
慌ただしく帰ってきた蒼がガチャガチャと音を立ててシャワーを浴び出した。
私はゆっくり咀嚼しながら美味しいオムレツと白米も頬張る。
私が食べ終わったくらいにいつも蒼が食卓につく。今日もそうだ。



