天国で君が笑っている。



「遥香ちゃん、こんな俺についてきてくれてありがとな」


部長の言葉に首を左右に振る。


「何度も守ってくださって、ありがとうございました」


この一年であったことを思い返す。


私に聞こえるように「なんで女が野球やってんだよ」と陰口を言っていた二年の先輩に「好きだからに決まってるだろ」と私よりも先に言ってくれたこと。


青葉先輩目的の女子の先輩たちにすれ違いざまに肩で突き飛ばされた時、すかさず飛んできて「大丈夫か?」と手を差し伸べてくれたこと。


次の日、その先輩たちを私の目の前に連れてきて謝らせてくれたこと。


練習試合でヒットを打ったら「ナイス!」って笑いかけてくれて、公式試合で誰よりも声を出していたら「お前のおかげで士気が上がる」と褒めてくれた。


部長の存在は大きい。本当に大きい。


夏の大会が終わって、三年生がいなくなった部活動。寂しくてたまらない。先輩たちがたまに顔を出しに来てくれるだけで嬉しかった。


だけど、これからはそれもない。


「あれ、部長、第二ボタン誰かにあげたんですか?」


蒼が私の隣からひょこっと顔を出し、不意にそんなことを言った。
部長の制服の上から二番目、そこにあるはずの金のボタンが確かになくなっている。


そしたら部長が「ああ」と、ポケットに手を突っ込んで「女子たちが俺の第二ボタンでばちばちしてたからこっこりトイレで外したんだ」と第二ボタンを取り出して笑った。


それをじっと見ていると部長が柔らかく笑って私の目の前に手を出した。


「これ、遥香ちゃんにあげようか?」

「えっ?」