女の子の私が野球をやっているということは、周りの人たちから見たらやはり普通ではないのかもしれない。


同級生の女の子たちからは好奇の眼差しを向けられ、野球部の先輩たちの中にも私のことをよく思っていない人がいる。


だけど、私にはたくさんの味方がいる。
彼方と蒼、小学生時代からのチームメイト、それから部長に青葉先輩も、なんかんやで助け舟を出してくれる。


クラスには美乃梨ちゃんという友だちだっている。


だから私は大丈夫だってそう思っていた。
なにも怖いものなんてなくて、なんなら無敵で、自分のことを最強だと信じて疑っていなかった。


毎日が楽しくて、幸せで。
挫折なんて言葉は知らない。今感じているちょっとの苦悩なんてちっぽけなものだった。
他人からどう思われていたって私は野球が好きでやっていて、同じ気持ちで野球をしている仲間も先輩もいる。


それだけで、心がいっぱいだった。この一年間は、本当に。


ビューーっと勢いよく風が私の髪の毛とスカート、それから近くの桜の木を揺らし、花びらを舞わせた。


中学生になって二度目の春。
あんなに短かった髪の毛が鎖骨のあたりまで伸びた。
今日は三年生の卒業式。
空は青くて、雲ひとつない快晴。こんなに気持ちのいい青空は久しぶりかもしれない。


一年があっという間だった。ついこの間私たちが入学した気がするのに、もう先輩たちを見送るだなんて。


暴れた髪の毛を指先で耳にかける。


「遥香」

「……彼方」

「早いな」