今なら聞いてもいいような、許されるような気がした。
「……好きに決まってんじゃん」
だけど声も表情も言葉とは裏腹に、ひんやりとした寂しさを孕んでいた。
「でも俺には才能がない。それこそ彼方みたいに圧倒的な野球の才能」
「そんなこと……」
「いいよ、お世辞は。俺ぐらいのやつ、どこにでもいる」
ハハッと、乾いた笑みに胸が軋む。
「一生懸命やったところで、俺にはなにも残らない」
「……そんなの、一生懸命やってから言ってくださいよ」
むっとして、思わず口調が強くなる。
「青葉先輩は私とは違って才能を努力で追い越せるじゃないですか」
先輩にこんなタテついていいのか、私にはわからない。
もしかしたら青葉先輩に嫌われてしまうかもしれない。
……だけど、黙っていられない。
「私はどんなに頑張っても性別の壁は乗り越えられないけど……それでも、いま頑張ってることが全部無駄だとは思わないです」
きっぱり言い切る。
青葉先輩が先輩自身の否定をすると、私を否定されているみたいに感じる。
私は私の頑張りを否定をしたくない。
彼方と蒼と、これまで頑張ってきたこと全部、なにも残らないとは思わない。
大人になった自分がどう思うかはわからないけれど、後悔だけはしたくないんだ。
後悔しないように、いま、大好きな人たちと大好きな野球を限界までやりたいんだ。
「頑張らなかったら後悔するって100%わかるけど、頑張ったあと頑張ったことを後悔するかは、頑張ってみないとわからないです」



