セカンドを守る先輩は下手じゃない。むしろ私の目から見ても上手だ。身軽で、遠くに鋭く飛んだ打球を平気な顔で捕球するところを幾度となく見て拍手しそうになったほど。だからこそ二年生なのに三年生も多く在籍しているうちの部で限られたレギュラーに抜擢されているのだけど。
でもそこに情熱を感じたことはない。守備に入っても絶対エラーしないぞって、バッターのときは絶対に打つぞっていう気迫もない。
そこに若干の歯がゆさを私は感じていた。
野球が本当に好きなのか疑問だった。
……ずるいとも、思っていた。
私はいつまでも野球できないから。
タイムリミットは三年。
男女の力の差に、挫折してしまうかもしれないという爆弾まで抱えている。
もう少ししたら、女の私は、男のチームメイトたちにどう足掻いても負けてしまう。力も、体力も、体格も。
先輩は私と違って、高校でも、大学でも、いつまでも野球ができるというのに。
「……最初は俺もあの子たちと同じだったから、かもな」
不思議な間で先輩がひとり言のように呟く。
「そうなんですか?」
「うん。なんでこの子入部したんだ?って。試合にも出られないのに。ずっと不思議だったし、正直少しイラついてたかも」
くっと顎を引くと「いまはそんなこと思ってないよ」とフォローされる。
「……どうしてそんなに頑張れんの? 試合にも出られないし、将来、職業にできるわけでもないのに」
真っすぐ私の目を見る先輩に迷わず「野球が好きだからです」と言うと、「ふは! 即答かよ」と笑われる。
「青葉先輩は野球好きじゃないんですか?」



