そしてトドメを刺すように「人の気持ち、もう少しわかるようになったほうがいい」とセリフを捨てて私の手首を掴んだ。
引っ張られるように歩いて進む私たち。
青葉先輩……?
「ど、どこに行くんですか?」
「ん? あー、サボろっかなぁって」
「え⁉︎」
ダメです、練習に戻りましょうと何回言っても一向にわたしの手を離そうとはしない先輩に半ば強制的に連行され、たどり着いたのは現在は使われていない空き教室だった。
ようやく手を離され「部長には青葉先輩から無理やりってちゃんと言いますからね」と伝えると「お好きにどうぞ」と返された。なんて人だ。
でも……。
「ありがとうございました。さっき、助けてもらって……」
「ううん、どういたしまして」
「……先輩、あんまり怒んない人だと思ってました」
「うん、俺もそう思ってた」
窓を開けて、ふちに器用に座る先輩。
私はその近くの席に座って、窓の外を見た。
不機嫌な灰色の空から大粒の雨が降っている。風がないぶん、雨粒は、真っ直ぐに地面へ落ちている。雨は嫌いじゃないけれど、私から野球をする時間を奪ってしまうから好きじゃない。
チラリと先輩を見る。横から見ると余計に先輩の鼻の高さが際立っている。やはり華があると思う。目立つし、派手だ。
青葉先輩の印象は、なにごとも緩く力まず、なんでもヘラヘラ笑いながらそつなくこなしていて、はっきり言うと、野球に対してもどのくらい本気なのか少し疑問に感じていた。



