天国で君が笑っている。



蒼は、野球を始めてから人が変わった。
それまでは「俺なんて……」と、後ろ向きな発言が目立っていた蒼だったが、野球を始めてからというもの、こういった前向きな言葉が増え始めた。


影響は、野球だけじゃない。彼方の存在も、大いに関係していると思う。彼方の存在が、蒼の目を輝かせている。



「あー、授業受けずに野球の練習してぇ」



左手にグローブ、右手にボール。
歩きながら上に投げてはキャッチする蒼。
危ないって注意は何度もしてきた。でも聞き入れてはくれないから、蒼のぶんの安全確認は私の役目。



「あっ、彼方!」

「……っ……」



横断歩道を渡りながら左右の安全確認をしていた私の隣で、前だけを見ていた蒼が口走る。
私も前に向き直した。蒼が我先にと、歩みを進めた。


自分を呼ぶ蒼の声が聞こえていたのか、数メートル先にいた彼方が立ち止まってこちらに振り返る。むくっと、仏頂面。ズボンのポケットに入れられた両手。



「よう、彼方!」

「おはよ、蒼」

「一緒に学校行こうぜ」

「ああ、いいよ」



……ちょっと、私もいるんですけど。


少しも私のことを気づかう様子もなく、ふたりが肩を並べて歩き出す姿を見て深い息を吐く。
いや、しょうがない。彼方の姿を蒼が見つけた時点でこうなることは容易に予想がついていた。


ほんと、蒼は彼方が大好きなんだ。


ふたりの後ろを、すこし間を空けて私も歩いた。