「じゃあさ、彼方の腹筋って割れてる?」
「あ? 当たり前なこと聞くなよ」
「まじ⁉︎ 後で触らせて⁉︎」
「は⁉︎ イヤだよ。絶対イヤ」
珍しく焦る彼方にニヤニヤが止まらない。
後で絶対触ってやるんだから。
***
腹筋が終わったあと五分休憩となった。
地べたに座り込んでいると、部長がおもむろに私のほうへ歩いてやって来た。
……と、思ったけどどうやら違った。
「どう? きつい?」
「いんや、全然」
「そっか」
部長が話しかけたのは私の隣にいる彼方だった。
彼方と部長は、知り合い?
首をかしげていると彼方が一言「兄貴」。
三秒ほど私の思考が停止した。
「え、ええええ⁉︎」
兄貴って、え⁉︎ いたの⁉︎ しかも部長⁉︎
「鈴木陸都だよ、よろしくね。君が遥ちゃんだよね?」
「は、はい!」
「弟から色々聞いてるよ。困ったことがあったり、誰かに意地悪されたらすぐ僕に言うんだよ? 例えば彼方とか」
「わかりました……!」
確かに。言われてみれば彼方とすこし目元が似てるかもしれない。切れ長で、綺麗で。
だけど彼方より、なんというか……全体的に柔らかくて、穏やかな雰囲気を纏っているのがわかる。
先ほどまでテキパキと部をまとめていた人物から放たれているとは思えないほど、いまはすごく優しさを感じる。
「……意地悪なんかしねぇよ」
「さっきは守ってたしね」
「うるせ」
これが……大人の余裕ってやつか⁉︎ ふたつしか変わらないけれど。
いつもは私よりうんと大人に見える彼方がすこし幼く映る。



