「あっ、体験入部だっけ?」
「うん」
「怪我しないようにね」
「ありがと。美乃梨ちゃんも気をつけて帰るんだよ」
歩きながら美乃梨ちゃんに手を振る。
美乃梨ちゃんはどの部活にも入らないらしい。
そして蒼のとなりにいるのは彼方を見る。
呑気に欠伸なんかして、お気楽だ。
私はこんなにドキドキしているっていうのに。
「おっ、体験入部?」
「はい、よろしくお願いします!」
グラウンドに行き、先輩に挨拶をする。
ふと先輩が私を見て「あれ? うちマネージャーはとってないはずだけど」と言われ、「あ、違います」と咄嗟に答える。
「私も選手として入部したいんです」
「え、君が?」
「はい」
驚いて、でも、納得していないように「へぇ」と半笑いの先輩。
近くにいた部員たちもザワザワしている。
「まあ、いいや。君らユニフォームある? そこらへんで着替えてきて」
「はい!」
返事をしたものの。
そこらへんって……いったいどこ。
「ごめん、私トイレで着替えてくるね」
「おう」
さすがに中学生にもなって、こんな公の場で着替えるわけにはいかない。野球のグランドとは正反対の位置にあるトイレにダッシュし、急いで着替えを済ませると、また全力疾走でグランドまで向かう。
遠くのグランドでは白い練習着に身を包んだ野球部のみんながひとつの場所に固まっている。
「集合!」
部長と思われる男の子が叫んでいるのが聞こえた。
ヤバい。急がないと。



