わかっていたことだ。
公式戦に出られない以上、入部できるわけがない。
試合に出られないのに野球をやる意味も……。
「朝霧」
「はい」
制服に縫われた名前の刺繍を見て、先生が私の名前を呼ぶ。
「野球が好きか?」
「……っ、はい! 好きです!」
即答する。
すると先生が二度深くうなずいて「そうか」と、黙って長考する。
三十秒か、一分か、三分か。
沈黙を破ったのは、先生のほうだった。
「よし、わかった。入部は認める」
「本当ですか⁉︎」
心の中に鮮やかな花が咲くような感覚。
彼方を見るとまるで"良かったな"とでも言うように笑い、私も笑顔になる。
「ただ、公式大会の試合には出せん。それは変えられん。近隣の学校との練習試合や、部活内の紅白戦には出せるかもしれんが……それでもいいのか?」
「はい。十分です」
悔しくないと言うと嘘になる。
けれどあと三年。大好きな彼方と蒼、それからみんなと野球をできる時間が増えた。それだけでも喜ばしい。
腕を組んだ先生が「わかった。じゃあ入部届け待ってるから」という台詞にお礼を言い、職員室を後にした。
「な? 遥香は諦めるの早すぎなんだよ」
「うん、ごめん」
謝ると「今日帰りにバッセン寄って行こうぜ」と言われて「うんっ」と深くうなずいた。
***
次の日の、放課後。
「えっ、じゃあ遥香ちゃん野球部に入ることにしたの?」
「うん、そうなの」
「そうなんだ! 頑張ってね、応援してる!」
美乃梨ちゃんにガッと手を掴まれて私は笑顔で「うんっ」とうなずいた。
「仲良しだな」
「まあね」
「いいけど、早く行くぞ」
蒼に声をかけられて「ごめん、もう行くね」と美乃梨ちゃんに別れを告げる。



