私は数秒の間をあけて「うん」と頷く。そして「ダメだったらちゃんと責任持って慰めてよね」と言うと「当たり前」と即答されて面食らう。
胸のあたりがジンと痺れるような感覚がして、鼻にツーンとした痛み。
この、不器用な優しさが、なんだか彼方らしい。
職員室の扉を二度ノックして「失礼します」と彼方がなんと躊躇もなくズカズカと入っていくなか、私は肩身を狭くして後ろについて歩く。
こっちが驚くほど、彼方の強靭なメンタル。本当に、関心するレベル。
「高谷先生」
「おう、どうした一年」
「ちょっと聞きたいことがあって」
野球部の顧問の前に立った彼方の背中をぼうっと見ていると、「こいつが」と、いきなり背中を前に押されて驚く。
「えっ、えっ、えっ?」
「自分で言えよ」
な、なんてヤツだ。ここまで引っ張ってきておいて。
目をぱちくりさせる高谷先生と目が合って、息の吸い方を忘れる。だけどこのままじゃダメだと思い直し、深呼吸。
「野球部に……入部できますか?」
「ん? 誰が?」
「わ、私……」
言い切ると高谷先生は「ああ」と。
「すまん。マネージャーは雇ってないんだ」
「あ、いえ……選手として……」
また驚いたようにまばたきを大袈裟に繰り返す先生にもじもじとしてしまう。
「女子部員かぁ……前代未聞だなぁ……」
「ですよね」
「ああ。女子は公式戦には出られん」
「はい」



