「…………」
目が、離せない。胸が、ドキドキする……。
一球一球に魂を込めて投げている。それが観戦している人たちに伝わっている。野球なんてまるで知らない私にさえ。
「スリーアウト、チェンジ!」
主審がそう言った。
彼が笑顔でマウンドからベンチに帰ってくる。打者3人すべてを、難なく空振り三振に仕留めたのだ。
彼と目が合う。私は目を見開いて驚いた。まさか、こっちを見るとは思わなかったのだ。
だけどそれはほんの一瞬の出来事で、すぐに何事もなかったかのように彼が他のチームメイトと同じように監督の指示を仰ぎに集まっていった。
作戦会議が終わったのち、円陣が組まれて凄まじい掛け声があがった。
私の心臓はいつまでもドキドキしたままで、その後も試合から目が離せなくなった。時折息をするのも、忘れるぐらい。
野球をしているとき、彼方はよく笑い、真剣な眼差しでバッターを睨み、そして活き活きと輝いている。学校にいるときの無表情とは、大違い。
まるでそこが──彼の本当の生きる場所、のような。
「お疲れ様、蒼」
試合が終わり、母が蒼に話しかけている横で私は蒼の顔をじぃっと見ていた。結局試合は、蒼の所属しているチームの勝ちで幕が閉じた。彼方の完投勝利だ。
「どうしたの、遥香」
よく似ていると言われている蒼の垂れた目が、私を見ている。