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それからの私たちはまた野球に明け暮れ、夏休み最後の日曜日を迎えた。小学六年生の最後の夏に行われる一年で一番大きな大会は、優勝というかたちで有終の美を飾った。


走って、投げて、打って、守って、攻める。


彼方が投げて、私と蒼が後ろで守って、みんなで打って走る。
そうやって勝ち取ったものだった。


そして夏休みが終わり、二学期が始まって私はだんだんと寂しさを抱いた。


だって女の私が、男の彼方と蒼と野球ができるのが今年で最後だということに、夏が終わってようやく気がついた。


中学生になったらふたりは野球部に入るだろう。だけど私は女の子だから入部することはできない。


その事実に胸を痛めながら練習に参加し、秋大会やその他の試合に出場した。


「遥香、アップ手伝って」

「うん」


練習前、彼方のルーティンに付き合う。


お互いに背中をくっつけて、腕を絡ませ、お互いの身体を持ち上げあって背中の筋肉を伸ばす。
最近私の身体が成長期だからか、こうして持ち上げられたり全力で走ると胸が張ってすこし痛い。


……なんて、彼方にはもちろん、誰にも言えないんだけど。


どうして私、女の子なんだろう。


「重……」

「は⁉︎ 失礼すぎない⁉︎」

「嘘」


淡々と言われた笑えない嘘に怒って彼方の身体を投げ飛ばす。


「怪力」

「へへんっ! 彼方なんかちょーひょろいから、簡単に投げ飛ばせちゃうもんね」


腕を組んで地面に倒れ込んだ彼方の前で仁王立ち。
ゆっくり立ち上がった彼方がおもむろにこにらに近づいて私の膝裏と肩に腕をまわした。