そういえば、
『彼方は五年生なのにエースで三番打ってるんだぜ!すごいだろ!来年六年生になったらあいつがキャプテンでエースで四番なんだぜ!』
と、蒼が熱く言っていたような……。



「プレイボール!」



キャッチャーの後ろにいる主審の人が右手を挙げて高らかにそう宣言した。私はそこらへんに落ちていた木の棒を見つけて、地面に絵を描く。


つまらない。暑い。早く帰りたい。野球なんて、興味ないもん。
クーラーが効いた部屋で、アイスでも食べたい。


蝉の鳴き声がひしめき合うなかで、せっかく持ち直していたテンションが下がっていく。
と、そのときだ。


シュッ──バンッ!


そう、なにかが弾けるような爽快な音が鼓膜に響いたのは。顔をあげる。周りの大人たちが唸った。出会ったことのない美味しい食べ物でも口に入れたかのような感心ぶりだった。



「やっぱり、天才っているんだな」



すぐ近くにいたおじさんの言葉。


わけもわからずに、ただなんとなく試合が行われているグラウンドに目線を投じる。キャッチャーがピッチャーの彼方にボールを投げ返しているところだった。


彼方が左手のグローブでボールを捕球すると、マウンドの白いプレートにかかった砂たちをスパイクではらっていく。


そしてマウンドを整え終えたあと、彼が静止する。ひとつ息を吐いてから身を捩って、腕を大きく振りかぶった。


指先から離れていくボールは、真っ直ぐに、素早く華麗にキャッチャーミットの中に収まっていく。


それら一連の動きがあまりに綺麗で、そしてとても球が速く投げられていて、とても同じ歳の男の子がしたプレーだとは思えなかった。


打者は、バッドさえ振れなかった。目を見開いて彼方から放たれたボールのスピードに驚いているところを見ると、どうやら振らなかったわけじゃなさそうだ。


……なに、いまの。