「打てー!彼方ー!」
セカンドベースから、手をメガホンにして叫ぶ。
彼方は真剣な顔で構えている。
ピッチャーは私のほうをチラチラと見ながらボールを投げた。
初球だった。
彼方の打った球は綺麗な弧を描き、ここまで飛べばホームランというラインを悠々に超えた。私たちのチームが逆転した瞬間だった。
見届けた私は余裕をもってホームベースを踏む。そして後から帰ってきた彼方とハイタッチする。
「すごい!すごいよ、彼方!彼方のおかげで勝てた!逆転さよならホームランだなんてすごい!」
おおはしゃぎする私に彼方が笑って、私の頭に手を置く。
「お前が先にヒット打って塁に出てなかったら、ただの同点ホームランだった」
声が優しい。目線が優しい。頬に熱を感じる。
「だから、お前のおかげで勝てたんだよ」
なんて言えばいいのだろう。なんと言えば伝えられるのだろう。この世界のポジティブな言葉いっぱいに使い果たしても言い表せられない感情であふれている。
楽しくて、嬉しくて、幸せだ。
野球を始めたことも、髪の毛を切ったことも間違いじゃなかった。
こんなにキラキラした世界が、あったなんて。
「ふたりのおかげだろーが!」
蒼が私たちのもとへ走ってきて、後に続いてやってきたチームメイトに囲まれる。
「お前すごいな!」
「ないすバッティングだったぞ」
たくさんヘルメットを叩かれ、激励の言葉をもらった。
私の試合デビューはこんな感じで幕を下ろした。
その後私は公式戦でも代打で起用されることが増え、着々と結果を残すことができた。
そんな折に監督から「来年はお前をファースト三番でレギュラーにしようと思ってるからそのつもりで」と言われて、驚きのあまり声を出さずにいた私の隣で彼方と蒼が大声をあげて喜んでくれた。
そして体力づくりがメインとなる冬を終え、私たちは六年生になった。



