天国で君が笑っている。



***


次の日、学校へ行く途中。歩いている彼方の後ろ姿を見つけた。
隣にいた蒼が「おはよ!」と彼方に駆け寄り、彼方が「おう」と立ち止まる。
いつもだったらそこからふたりの世界に行かれてしまうのに、今日は、彼方が私のほうを見て「よ」と短く声をかけてくれた。


ただ、それだけなのに。たったそれだけの変化だったのに。じわじわと自分の顔に花が咲いたのがわかった。


「おはよう!彼方!」


うれしくて、声まで大きくなる。私もふたりに追いついて並んだ。


「お前、ちゃんと親に野球やるって言ったのか?」

「言ったよ」

「え?もしかして彼方が遥香のこと誘ったのか?」

「うん。こいつ、センスあるから」

「え、まじ?」


蒼が信じられないとでも言いたげな顔で私のことを見る。私は誇らしげな気持ちを抱えて「へへん」と鼻を伸ばして胸を張った。
唇を尖らせて「ふぅーん?」と不服そうな蒼。だけどすぐに「あ!」となにか思いついたように彼方の方を向く蒼。


「今日学校から帰ったらバッセンいかねえ?」
「いいな、いこ」


バッセン。バッティングセンターのことか。
蒼の誘いに乗る彼方。私も行きたいところだけど、私は今日自分の長い髪の毛を元美容師の母に切ってもらう予定なのだ。


「私行けないや」
「じゃあ明日も行こう」


そう言った彼方は、それがなんでもないように、さも当たり前かのようにしている。


彼方はいろんなものをぶち壊していく。
男と女とか。経験者と未経験者とか。これまでまともに話したことすらなかったのに。とか、とにかくそういったもの。私が引け目に感じているところを、わざとなのか無意識なのかはわからない。


だけど昨日まで感じていた"蒼の妹""クラスにいたな、こんなやつ"って感じはまったくなく、私を私として思って接してくれている。


それがうれしいんだ。