天国で君が笑っている。



その日の夜。夕飯を家族全員で囲んでいた時。私はひとり、自分のなかにあるのかもわからない勇気をひとつずつ拾い集めていた。お箸も持たずに、ただ下を向いて。


そんな私を見て、蒼が「遥香どうかした?」と首を傾げた。父と母も不思議そうに私を見ていた。


「……私も……したい」

「え?なんて?」


声がうわずる。のどがキュッとしまる感覚がする。
隣に座る蒼にすら届かなかった。
だけど言葉にしないと始まらない。


「私も……私もっ、野球がしたい。蒼と同じチームに入りたい」


ドンッ。いきなり立ち上がった私を家族三人が驚いて同じような顔をして見上げた。言い切った私は興奮気味に鼻息をフンフン荒立てていた。


「遥香、本気か?」

「本気だよ」


蒼の問いかけに、真剣に答えた。
本気じゃなかったら、本気で私が野球をやりたくなかったら、私の胸はこんなにもドキドキしていない。


母と父は顔を見合わせたあと「そうねぇ……」と苦笑した母。次に「遥香がやりたいなら反対はしないけど……」と、父がぽつり呟いた。


「だけど危ないわよ?顔にボールが当たったりでもしたら……」

「大丈夫。私頑張って練習するもん。それから私、もうスカートはかない。髪だって短くする」

「えっ?」


戸惑ったお母さんの表情。私は本気だ。
言いたいことを言い終えた私は改めて「いただきます」と手を合わせて手をつけていなかった夕食にありついた。


「髪切るっていつ?」
「明日!」
「明日⁉︎」


母の素っ頓狂な声に、私は変わらずご飯に手をつける。からあげ美味しい。お味噌汁も、白米にとても合う。緊張の糸が切れたからか、口に運ぶものすべてが一味も二味も素晴らしいものに感じた。


そんな私と対照的に、家族三人が私を見つめる視線には心配と驚きと困惑が含まれていた。だけどそのことには気づかないふりをして、私はご飯を頬張り続けた。