彼方とふたりきりだなんて久しぶりだ。
「帰るか」
「うん」
肩を並べて歩く。同じくらいだった身長が、もう随分と差が出来た。
……私、告白されちゃった。
人生で初めて、男の子に「好き」だなんて言われた。
しかも、私と同じ。余命宣告をされた男の子。
心の中で呟く。言わないけれど。だって彼方にはまったく関係のないことだし。
「公園寄ってく?」
「いいよ」
家の近くの公園に入る。
中学生の頃と変わらず、時々立ち寄っては、こうしてキャッチボールをする。
だから野球は辞めたのだけれど、かばんにはいつだってグローブが入っている。
「軽く投げてよね」
「わーってるよ」
ベンチにカバンを置いて、グローブを装着。
本気で投げられてもきっと、もう、取れない。
まだ卒業してそんなに時間が経ったわけではないけれど、ここ最近の彼方の成長は目まぐるしい。
体格も、プレイも。
無言でなん往復かキャッチボールを繰り返す。
すると突然「今日なんか元気なくね?」とボールを投げられて、動揺から捕球しそこねた。
地面を転がるボール。
しゃがんで拾って「そんなことないよ」と投げ返す。
「お前、俺に隠しごとできると思ってんのか?」
「……隠しごとなんてしてないし」
嘘だけど。大きな隠しごとがあるけれど。
だけどごめん。この嘘だけは、絶対死んでも、死ぬまで突き通すよ。
「……遥香」
「なに?」
「いや、なんでもない」
なにかを言いかけて、やめた彼方。
私もこれ以上は追求してほしくなかったので、言及することはしなかった。



