投げ返された球を、たどたどしくもグローブで受け取る。落としそうになりながらも、なんとか捕球することが出来た。
そしてまた投げ返す。捕ってもらう。ボールが返ってくる。
繰り返していくキャッチボール。一球ずつ彼方がわざとなのか受け取るたびに距離をどんどん伸ばしていく。
庭の端と端。難なくキャッチアンドリリースが出来るようになって来た頃、彼方が「女なのがもったいないな」とこぼした。
「お前、俺たちと同じ野球チームに入らねえか?」
「えっ?」
「一緒に野球しようぜ」
まさかのお誘いに、頭を悩ませる。
野球はしたい。こんなふたりきりだけじゃなくて、チームとして。打って守って走って。だけど散々野球なんて興味ないと蒼の練習の見学なんて行きたくないとワガママを言っていた手前、今更お母さんたちに「野球をやらせてほしい」と言うのがやっぱり恥ずかしい。蒼の反応も気になるし。
「俺、お前と野球がしたい」
真っ直ぐ。彼のピッチングと同じような、度直球な台詞。生温い風が吹く。真剣な面持ちで、私を見る強い瞳。
生ぬるく柔らかい風が、私たちの間をすり抜ける。
「……私も」
溜まった唾を飲み込んだ。
「私も、彼方と野球がしたい」
目をぎゅっと瞑って、あふれた本音はなんの装飾もないストレートな言葉だった。
──私は知らなかった。
野球との出会いが。彼方との出会いが。私の人生において、何事にも変えがたい、一生ものの宝物になるということ。
私の世界が、一斉に華やぎだす。
間違いなく君がいる場所が、私の世界の中心だった。



