風が心地よく吹く自然の中、ウィルとアマネはお弁当のサンドイッチをつまみながら、のんびりと過ごしていた。

「良い天気ですね」

「そうだな。……今日なら、前に言ってた影送りってやつが出来るんじゃないか?」

ウィルの言葉に、アマネはふと食べていたサンドイッチを手元に置く。

「?どうした?」

「ウィルは、私の過去を知りたいと思いながら、何も気にしてないという態度で接してくれますね。……それは、私のためですか?」

自分のために、ウィルに無理をさせているのだろうかとアマネは思う。

話すのは怖い。けれども、ウィルを傷付けたい訳じゃない。

フランツは知りたいと思ったからこそ、アマネの過去を調べた。どんな方法を使ったかは知らないが。

だが、一つ気にかかることはある。彼は、本当に自分の罪と過去を知っているのだろうか?

人から得た情報が、正しいとは限らない。けれども、それを確認する術はない。

だが、これだけは確かだ。フランツは自分で調べ、ウィルはアマネの口から語られるのを待っている。

「もし、私のために聞こうとしないなら、それは私の我が儘です。ですから、ウィルが本当に望むなら、今ここで話します」

ギュッとズボンを握りしめるアマネの手は、小さく震えていた。そんなアマネの頭をウィルはぽんぽんと優しく叩く。

「待つよ。確かにお前のためでもあるけど、半分は俺の我が儘。俺はあのキザ男と違って、人の過去を勝手に掘り下げる気はないし、気は長い方だ……それに」

ウィルは言葉を切って、アマネに笑いかける。

「俺はお前を尊敬してるし、信じてる。お前がいつか、お前自身の気持ちの整理をして、俺に過去を話してくれるってな。後さ、どんな過去があったとしても、アマネはアマネでしかないだろ?アマネが変わる訳じゃない。だから、安心しろ」

(……君は、本当に凄いですね。私と出会う前の経験から、人というものを信じられなくなった時もあったみたいですが。……けれども、傷付いても信じる覚悟や強さがあります)

自分には無いものを、ウィルは沢山持っている。フランツとウィル、それから自分達には共通点があれど、やはりウィルは自分やフランツと同じとは思えない。

(君はきっと、私が君を助手にした本当の理由を知らないでしょう)

アマネがウィルを助手にしたのは、ウィルの経験が役に立つと思ったからと言うのもある。

助手なら誰でも良いわけではなかった。―否誰でも良いと思っていた部分もあったが、アマネは助手など取る予定はなかった。

女で日本人の自分の側に寄ってくる人間は、大体は騙そうとする者ばかりだ。

アパートに住みたいという者もおらず、逆にありがたいと感じていた。

一人で良いと思っていた。助手などいなくとも、自分一人で事件を解決すれば良い。

けれども、人が一人で居続けるのには、それなりの覚悟が必要だった。

孤独というのは、時に言い知れない恐怖を生み出す。

(……私が君を側に置いたのは………一人でいるのに、耐えられなくなったからです)

我ながら最低な理由で、ウィルに話すことが出来なかった。